【美容師】業務委託でクビ|違法契約や個人事業主の解雇・引き抜きとは

業務委託の美容師として働いている方の中には、
「突然サロンから契約を切られた」
「他店に引き抜かれたらクビになった」
という理不尽な辞め方を経験された方もいるのではないでしょうか。
本記事では、業務委託で働く美容師が「サロンから一方的に打ちきられて辞める」とき、何がルール違反で、どこまでが正当なのかを解説します。
業務委託サロンに潜む闇や、業務委託美容師の労働者性の有無、実際にトラブルに巻き込まれた場合の対処法までをご覧ください。

「業務委託でも守られる方法がある」という事実を知ることで、ご自身の働き方と未来は確実に変わります。
実質「労働者」である個人事業主ならクビは違法


業務委託契約で働いている美容師でも、「働き方の実態」が労働者に近い場合、一方的な契約解除(クビ)は問題視される可能性があります。
法律上どのような働き方なのか、といった本質的な側面から詳しく見ていきましょう。
- 原則として業務委託は「契約解除」で「解雇」ではない
- 例外として「不当解雇」になる実質労働者のケース
参考:ベリーベスト法律事務所
>>美容師の個人事業主で確定申告では、インボイス制度の影響について解説。
原則として業務委託は「契約解除」で「解雇」ではない
美容師が業務委託として働く場合、基本的に“個人事業主”という立場になります。
そのため業務委託とは、仕事の依頼者(サロン)と受託者(美容師)との間の民法上の契約にすぎません。



業務委託は、法律上「委任契約(民法)」であり、雇用契約(労働基準法)とは異なります。
サロンとフリーランス美容師は“対等な立場”とみなされており、雇用契約のような「解雇」という制度は存在しないためです。
したがって、契約を終了させたいときはあらかじめ美容室業務委託契約書に定められている期間を満了した場合の「契約満了」もしくは「契約解除」の手続きで行うのが原則。
美容師の立場から見ると、「クビにされた」というよりも「契約を打ち切られた」という意味合いになります。ただし、契約解除にも相手の信頼を著しく損なうような事情など、一定の理由が必要です。
一方的な打ち切りには法的リスクが伴うため、契約書や通知内容の確認が重要となります。
フリーランス美容師の雇用契約書やテンプレートについては>>シェアサロンでトラブル|契約書に注意!でも解説しています。
例外として「不当解雇」になる実質労働者のケース
一方で、業務委託契約の実態が「会社の指示で動く従業員」と変わらないなら、法律上“労働者”とみなされ、「解雇=違法」とされる可能性があるのです。
業務委託であっても「実態が労働者に近い働き方をしている場合」とは、以下の内容に該当するケースのことです。
「実質的な労働者性」が認められるポイント
- サロンの営業時間中に常時拘束されている
- 出勤日・出勤時間がサロンの指示で固定されている
- 他の仕事(他店舗)を禁止されている
- 契約書が存在しない
- 報酬が固定的で歩合と異なる
- 施術メニュー・料金・接客方法まで細かく指示される
- 雇用と変わらない従属関係にある
これらが重なると、「形式上は業務委託でも、法律上は労働者として扱うべき」と判断されます。
つまり、「一方的な契約解除」があった場合でも以下の可能性が生じるということです。
- 実質的労働者とみなされれば不当解雇として違法性を問える可能性
- 民法上の契約解除ではなく労働基準法に基づく解雇規制が適用される可能性
- 解雇予告手当(30日分の報酬)や解雇無効の主張、職場復帰、損害賠償請求できる可能性
業務委託美容師の具体例
業務委託(フリーランス)としてサロンと契約している美容師が、実質的には「労働者」であると判断される内容の一例をいかに挙げます。
具体例
毎日10時〜20時拘束
売上ノルマあり
他店舗掛け持ち禁止
施術メニュー指示あり
→ このような働き方だと、契約形態が業務委託でも労働者と同等に扱われる可能性が高いといえます。
ご自身が本当に“個人事業主”なのか、それとも“実質労働者”なのかは「契約書の文言」よりも「実際の働き方」で判断されます。
「クビと言われた」ことに違和感があるなら、その理由を整理し、記録を残し、弁護士など専門家に相談することが最善の行動です。
また、サロンの顧客引き抜きや訴訟トラブルについてお悩みの方は、>>美容室のオーナーを訴えたいも参考にご覧ください。
個人事業主と労働者の違い|比較一覧表
形式上は業務委託でも、実態が「勤務時間を管理されている」など労働者と同様であれば、雇用扱いになる可能性がありことをお伝えしましたが、下記では一覧表として「個人事業主(業務委託)」と「労働者(雇用契約)」の違いを比較できるようになています。
項目 | 個人事業主(業務委託) | 労働者(雇用契約) |
---|---|---|
契約形態 | 業務委託契約 | 雇用契約 |
契約の根拠 | 民法 | 労働基準法 |
指揮命令 | 受けない(自己裁量) | 受ける(勤務指示) |
時間管理 | 原則自由 | 勤務時間を管理される |
出勤義務 | 自由 | 原則あり |
給与形態 | 出来高・歩合報酬 | 月給・時給制など |
保険・税金 | 自己管理(国保・国年) | 会社が一部負担(社保) |
業務委託の末路や、業務委託美容師はなくなるの?について解説した>>美容師の業務委託サロンとは|稼げない?や、>>【美容師】フリーランス新法とはも一緒にご覧ください。
個人事業主が「労働者」とみなされる基準


個人事業主として契約していても、下記のような要素がある場合、法律上は労働者と認定されることがあります。
より具体的に確認していきましょう。
「労働者」とみなされる基準
- 特定の会社でのみ仕事している
- 毎日シフトに入っている
- 会社の保険に加入している
- サロンオーナーの言いなりで会社より弱い立場にある
特定の会社でのみ仕事している
業務委託美容師が特定の1社に依存している場合、「労働者」と見なされる可能性が高まります。
個人事業主とは、本来複数の顧客や事業者と自由に契約を交わし、独立した経済活動を行う存在だからです。
したがって、特定のサロンのみで働き、他のサロンとの兼業が事実上不可能な状況にある場合、「雇用関係に類似した関係性」であると判断されやすくなります。
実際の例としては、「Aサロンで週5日勤務、顧客の新規集客も店側がすべて行い、他店舗との契約は禁止」というような独立性がなく、労働者性が強いとされる業務委託形態も。
こういった他の美容室との契約を禁止する条項がある場合、それが拘束性の証明としてサロン側へ不利に働くことがあります。
毎日シフトに入っている
業務委託契約でも、出勤日や時間が会社側によって固定されている場合、実質的には労働者と見なされることがあります。
本来、個人事業主であれば「いつ働くか」「どれだけ働くか」を自身で決められる立場であるべきだからです。
しかし、あらかじめ決められたシフトに基づいて出勤しなければならず、無断欠勤や遅刻を問題視されるようであれば、それは会社の管理下にあると見なされます。
ある美容師が「火曜〜土曜の9:00〜19:00、月曜定休」というシフトに従って働いていた場合、その勤務実態は雇用に近いと判断される事例も。
業務委託という名目でも、会社がシフトを一方的に決めているなら、労働者としての保護を受ける余地があります。
会社の保険に加入している
業務委託でありながらサロンの社会保険や雇用保険に加入していると、法律的な整合性が取れず、「偽装業務委託」と判断される可能性があります。
個人事業主は原則として「国民健康保険」と「国民年金」に加入し、保険料は全額自己負担です。
一方、雇用契約では「健康保険」「厚生年金」「雇用保険」などに加入し、会社が保険料の一部を負担します。
そのため、業務委託契約なのに会社の社会保険に加入している場合、それだけで“労働者として扱われていた”証拠になり得ます。
たとえば業務委託美容師が、知らぬ間に雇用保険に加入されており、後に解雇された際に労働者性を主張したところ、会社側は契約形態を説明できず、不当解雇として認定された判例があります。
サロンオーナーの言いなりで会社より弱い立場にある
報酬や業務内容の決定に関して、完全にサロン側の指示に従っている状態は、対等な契約関係ではなく、支配・従属関係とされる恐れがあります。
本来の個人事業主であれば、業務範囲・金額・納期などを自ら交渉・決定できる立場にあるからです。
しかし、報酬の変更を一方的に通達されたり、「この内容でやってもらわないと契約打ち切り」といった形で実質的に断れない状況が続いているなら、それは“雇用に近い従属関係”と見なされます。
例えばフリーランス美容師として働いていたが、メニュー価格や休日設定すら自分で決められず、売上ノルマや接客スタイルまで細かく指示されたというケースでは、労働者性が非常に高いと判断されています。
名目は業務委託でも、力関係に大きな偏りがある場合は「労働者性あり」と見なされる可能性が高まります。



以上を総合的に見て「使用従属性」が強いとされれば、不当解雇の場合に損害賠償や解雇予告手当の請求が可能になる場合も。
実質労働者の個人事業主がクビになったらすべきこと


ここでは、契約打ち切りを一方的にされたときに取るべき行動を解説します。
理不尽な契約解除に泣き寝入りしないための、知っておくべき知識を確認しておきましょう。
- 解雇理由・契約内容の確認
- 雇用契約への切り替え要求
- 未払い賃金の請求
- 解雇予告手当の請求
- 解決金支払いの交渉
- 弁護士や労働基準監督署へ相談
解雇理由・契約内容の確認
まず確認すべきは「なぜ契約が切られたのか」「契約書にはどう書いてあるか」です。
一方的な契約終了であっても、契約書に事前通知や理由明示の義務が定められていれば、その違反が争点になります
例
「急に来月から契約を更新しない」とLINEで通告された場合でも、契約書に“1ヶ月前通知”と書かれていれば契約違反として交渉材料になります。
Point
トラブルの根拠は必ず「文面」で押さえることが重要。
雇用契約への切り替え要求
実態が労働者なら「雇用契約」としての扱いを求めることが可能です。
業務委託といいながら、出勤義務や業務指示、固定時間勤務があった場合、労働基準法上の労働者性が認められる可能性が高いためです。
例
週5勤務・出社義務・報酬保証ありという実態を証拠として提出し、労働者性を認定されたケースも多数あります。
Point
事実ベースで「雇用だった」と証明するのが交渉のカギ。
未払い賃金の請求
報酬が支払われていない場合は、「業務委託報酬」ではなく「賃金」として請求できる可能性があります。
労働者性が認定されれば、未払い分は賃金扱いとなり、時効は3年(※2020年4月以降)となります。
例
解約直前の1ヶ月分の報酬が支払われていない場合、労基法に基づき賃金請求権として対応可能です。
Point
未払い分の計算には明細や振込履歴も必ず確保しておく。
フリーランスの手取り・年収相場については>>【美容師の業務委託】相場と現実で解説。
解雇予告手当の請求
「実質労働者」であれば、労働基準法第20条に基づく解雇予告手当の対象になります。
解雇の30日前までに予告がない場合、30日分の平均賃金を支払う義務が会社側に発生するためです。これは退職金とは別の制度です。
例
当日通知で契約打ち切りをされた場合、日額1万円なら30万円の解雇予告手当を請求可能。
Point
突然の終了通知は「違法」になり得るので、証拠を持って主張する。
解決金支払いの交渉
トラブルを裁判にせず、和解で終わらせるための選択肢として「解決金交渉」があります。
感情的な対立を避け、次のステップに進むためにも、金銭での和解は現実的な手段になるからです。
例
未払い報酬+解雇予告手当+迷惑料などを合わせた50万円程度を請求し、結果40万円で和解したケース。
Point
「法的措置」ではなく「話し合いによる解決」も視野に入れると良い結果になる場合も。
弁護士や労働基準監督署へ相談
労働者性を証明し、適正な救済を求めるには専門家の協力が不可欠です。
個人対会社では力の差があり、証拠提出・交渉・請求の段階で専門知識が求められるためです。
近年ではフランチャイズ型サロンなどでも業務委託トラブルが急増しており、労基署もその実態把握に動いています。
例
実際に労基署へ相談し、「偽装業務委託」として是正指導が入ったサロンも。弁護士費用が不安なら、法テラスなど無料相談制度も利用可能。
Point
泣き寝入りせず、公的機関や専門家を頼ることで適正な救済が受けられる。
まとめ
美容師の業務委託は自由度が高く、報酬も上がりやすいメリットがある反面、「突然の契約終了」のデメリットがつきものです。
ただ業務委託契約だからといって、すべてが自己責任ではありません。
美容師として個人事業主という立場でも、実態が雇用に近ければ労働者としての法的保護を受けられる可能性は十分あります。
特に「勤務時間の拘束」「他店舗との兼業禁止」「一方的な指示や制限」があるなら、それは名ばかり業務委託かもしれません。
「辞めさせられた」「急に契約終了を告げられた」場合も、泣き寝入りする必要はありません。
大切なのは、自分の立場を正確に理解し、証拠を残し、冷静に対処すること。
契約書と働き方のズレを確認し、必要なら専門家に相談しましょう。
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